リンク・ハート



「ティチエルっ!!」
女の人の声が、辺りに響く。シュッという引き裂くような音が続けて聞こえてくる。
十数メートル前で、バタリ、と倒れる白いワンピースの少女。ワンピースに赤い染みが広がり、白を蝕んでいく。
この時には、もう考える事はできていなかった。
モンスターが、少女の目の前まで迫っている。地面を蹴って、走り出す。
周りの誰かが悲鳴を上げたが、誰だったのかわからない。
「ぅあっ・・・・・・」
喉から発せられたその声は、自分のものじゃないような気がした。
先ほど倒したゼリッピのゼリークリームに足を滑らせたようだ。派手に転んで砂煙が舞う。
その間に―――――
ザッ・・・・・・!!
虚空を切り裂く音がした後、鮮血が降りかかった。



ティチエルが死んでから、1週間が経った。
正確には、意識を失ってからだが―――――助かる見込みは低いと医師が言っていた。
デイジーから買った青い薔薇の花束を持って、アクシピターの小部屋へ向かう。

横たわるティチエルと、その横で死んだように眠っているミラが居た。
一晩中、付きっ切りでティチエルを見守っていたようだ。
小さな毛布をかけると、「ぅう・・・」と呟いた。起こしてしまったのかと内心どきどきしながら様子を見ていると、再び寝息を立ててベッドに顔を埋めた。どうやらただの寝言だったようだ。
ベッドに近づき、ティチエルの足下に腰をかける。キイ、と小さく軋んで少しだけ凹んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言でティチエルの柔らかく輝くプラチナブロンドの髪に触れる。サラサラしていて、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうなほど繊細だ。
・・・・・・・・・こんなに繊細で華奢なのに、あんな大きなモンスターの攻撃を受けたんだ・・・・・・・・・
あの時俺が足を滑らせなかったら、間に合ったかもしれないのに。
自然と拳を握る手に力が入る。
くそ・・・・・・・・・
キィ・・・・・・
唐突に、背後でドアが軋む音がした。反射的に身構える。
「ボリスか。来ていたのか」
シュワルターだった。・・・・・・・・・・・・ティチエルの近くにいる一人だけの昔からの知り合い。
シュワルターがベッド脇のサイドチェアに腰掛ける。ティチエルの堅く閉じられた瞳を見つめている。
その姿があまりにも痛々しくて、
「・・・・・・・・・すみません」
ポツリ、と独り言のように呟いた。独り言じゃないだろうが・・・・・・。
シュワルターが、こちらに視線を向ける。威厳のある、けれどどこか親近感を覚えるような瞳で柔らかく言う。
「君のせいではない。ここのような組織に入ったのなら、いつかは来る事だった。それが早まっただけだ」
哀愁が漂う表情で無理に微笑みながら、再びティチエルを見つめる。
罵倒された方がましだった。
居た堪れなくなって、すっくと立ち上がる。
「用事があるので、これで」
シュワルターが何かを言おうと口を開きかけたようだったが、足早に部屋を出て行く。
もっとましな言い訳は無かったのか。あれじゃあティチエルがどうでもいいみたいじゃないか。
(どうでも・・・・・・いいはずないだろ・・・・・・)
心の中で、深く、長い溜め息をつく。
馬鹿だ。俺は。


人ごみは嫌いだ。自分が独りに感じるから。
今日はルシアンも居ない。確かあいつはティチエルの事が好きだったらしいから、相当ショックだったんだろう。
そう思うと、また息が苦しくなる。
「くそ・・・・・・・・・」
足下に転がってきた瓶(ポーションの瓶だろうか)を思い切り蹴り上げる。
瓶が空中で弧を描いて近くの草むらに落ちる。
なぜだかわからないが、しばらく静止する。ハッとして、左右をきょろきょろと見回すが、明るく五月蝿い声は聞こえない。
いつもなら、ミラがイライラしながら突っ込んだり、ルシアンがウロチョロと瓶を探しに行ったり、ティチエルが笑っていたり―――――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
寂しい、なんて思ったこと無いのに。この気持ちは・・・・・・・・・
(・・・・・・ああっ!)
考える事事態が面倒くさくなってきた。自分を取り戻すように、頭を掻く。
(こんな事してられっか・・・・・・・・・)
180度方向転換をし、町の出口に向かって走り出す。


―――――ドアの隙間から光が漏れている。
・・・・・・・・・なんだ?こんな夜遅くに。
盗み聞き。なんて質が悪いとは思ったが、どうやらティチエルに関わるようだった。
だから覗いたのか、自分でもよく分からない。体が勝手に動いたみたいだった。
そっと、気づかれないようにドアに手を沿え、隙間から覗き見る。
ティチエルを囲んで、シュワルター、アレン、メリッサ等が深刻な顔をして話し合っているようだ。
小声で話しているらしく、所々の単語しか聞こえないが―――――
「・・・目覚めさせる・・・・・・ファイヤーエレメンタルの・・・・・・・・・」
「それは・・・・・・・・レアドロップだろう・・・・・・・難しすぎる・・・」
「でも・・・・・・るには・・・それしかないの・・・」
・・・・・・・・・・・・・・ファイヤーエレメンタルのレアドロップ・・・・・・・・・・?
もっと聞こうと思い顔をドアに押し付けた途端、ドアがキイ、と耳障りな音を立てた。
「!!」
「誰だっ!」
部屋の中にいる全員に鋭い声を浴びさせられて、一瞬ビクッとした後一目散に宿に逃げ帰った。


「ファイヤーエレメンタルっ・・・・・・・・・ファイヤーエレメンタルっっ!!」
呪文のように、自分でも気持悪いほど必死に連呼する。
ファイヤーエレメンタルのレアドロップと言う条件だけで、それを探すのは無謀すぎる。
それにファイヤーエレメンタルのレベルは自分よりも確実に上で、太刀打できるとは到底思えない。
けれど、どうしてもじっとしている事はできない。
一心不乱に目的ではないモンスターを薙いで行く。狩りをしている人々とすれ違うたびに、うっとうしそうな、迷惑そうな目を向けられる。
その視線を全て無視して奥へ奥へと進んでいく。
「・・・・・・・・・出て来い・・・・・・・・・」
ふと、何か違和感を感じて足を止める。辺りを見回すと、さっきまで刺々しい視線を向けていた人々が一人残らず消えている。
直感で何かを感じ取り、一歩後ろへ退く。
刹那。
ゴ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッッ!!
すごい勢いで火の塊が飛び出てくる。剣を振るい、押し寄せてきた熱風を防ぐ。
「来たな・・・・・・・・・・・・・・・」
ファイヤーエレメンタル―――――確認し終えるのと同時にターゲットに向かって乱暴に剣を振り下ろす。
ふしゅん・・・・・・・・・
グラシアで攻撃したのがきいたのか、急所にあたり一瞬眩い光を放って空気に同化する様に消える。
レアドロップは出てこない。
「くそぉぉっ!!!」
襲い掛かってくるファイヤーエレメンタルに向かって、後先考えずに魔法攻撃を放つ。





「・・・・・・っは・・・・・・・・・・・っはぁ・・・・・・・・」
自分の心臓が今にも壊れそうなくらい強く鼓動する。
鼓動にあわせて、右肩に出来た抉られた様な傷から血が噴出す。激痛に呻き声を上げそうになるが、なんとか堪え剣を支えに立ち上がる。
後先考えずにやたらめったら魔法攻撃を放ったせいで、マナは底を尽きてきていた。
どんどん沸いてくるファイヤーエレメンタルを睨むが、血を流しすぎたようで、眼がかすみよく見えない。
「・・・・・・うぁあ!!」
正面から攻撃を仕掛けてきたファイヤーエレメンタルに剣を放る。振り上げる力は無かった。
戦闘を始めてから、何回目かのクリティカルヒット。かすんだ眼で地面を見下ろす。
「あ・・・・・・・・・・・・・・・」
通常ドロップではない物―――――レアドロップのはずの、永遠不滅の炬火――――――――――
一拍遅れて震える手でそれを掴む。じりじりと、手のひらが焼けるような感覚があったが、そんなことは気にしない。
「・・・・・・・・・・・・・やっと・・・・・・・・・・・・」
目頭が熱くなる。足の力がスッと抜けていき、硬く、熱い地面に倒れこむ。
今すぐここから脱出しなければいけない。分かっているものの、力が出ない。
(せめて・・・・・・せめてこれだけでも・・・・・・)
全身の力を使い、左手を腰のポーチに持っていく。
ド・・・・・・・・・ッ!!
「うああああああああああッッ!!」
左手に向かって攻撃が放たれる。焼け爛れ、血が滲む。
顔は地面につけたまま、目線だけを上げる。
十数体のファイヤーエレメンタルが囲み、見下すように輪を狭めてくる。
「く・・・・・・そ・・・・・・」
一体のファイヤーエレメンタルが飛び掛る。それを合図に一斉に炎を放ちながら襲い掛かってきた。
硬く瞼を閉じ、手の中のそれを確りと握る。

































――――――――――・・・・・・ティチエル・・・・・・――――――――――




































「        」

誰かが、呼んでいる

「・・・さん・・・」

すごく、強い思いで、呼んでいる

「・・・ボリス・・・さん・・・」





































「ボリスさんっ!!」
誰かが呼んでいる。重く瞳に圧し掛かる瞼をゆっくりと開ける。
突然鋭い光が眼に飛び込んできて、もう一度瞼を閉じる。
覚悟して、再び光を向かえる。
ふわ・・・・・・・・・
頬に柔らかい感触。焦点が定まらない瞳でも見えるほど近くに、眼を腫らした少女の顔があった。
「・・・・・・・・・・・・ティチエル・・・・・・・・・・・・?」
少女の名を口からこぼすと、今にも泣きそうだった少女の顔が、更にくしゃくしゃになった。
「ボリ・・・ス・・・・・・さん・・・・・・!」
「ルシアン、シュワルター達を呼んで来い!!」
「う、うんっ!!」
ミラの半分怒鳴るような声。ばたばたと遠のいていくルシアンの騒がしい足音。
扉が乱暴に閉められる。糸がが切れたようにティチエルがこちらに向かって倒れこむ。
「ボリスさん・・・っ・・・・・・・・・ボリス・・・・・・さん・・・・・・・・・」
自分を呼ぶ、澄んでいて、ソプラノトーンの心地のいい声。
零れ落ちた涙が、首筋を伝い髪の毛の間からシーツに染み込む。
嗚咽を漏らす小さな頭を撫でようとした。が、神経が伝わっていないようにだらりとして動かない。
「なん・・・・・・で・・・・・・ティチエル・・・?」
喉から上手くまとまった言葉が出ず、途切れ途切れにしか紡げない。
パッとティチエルが顔をあげ、つっかえつっかえに、時々嗚咽が混じりながらも伝えようとする。
「あっの・・・・・・・・・・・・ボリスさんっ・・・私をかばって・・・・・・血が・・・・・・・・・血が・・・・・・・・・動かなくて・・・・・・・・」
話が飛び飛びでよく分からないが、
「俺・・・が?」
とりあえず、今まで自分が意識不明だったらしい事は分かった。
じゃあさっきまでのは・・・・・・・・・?
「ずっと・・・ずっと・・・・・・・・『ティチエル』って・・・・・・私のっ名前呼んでて・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・ああ。分かった。
俺は、ティチエルのことが好きだったんだ。
だから、ティチエルの事を助けたかったんだ。
思えばさっきまでの出来事は、自分の心の中の正直な気持を表していたのかもしれない。
「・・・・・・ボリス、さん・・・・・・?」
急に視線を泳がせた事を不思議に思ったのか、蒼く澄んでいる瞳で問うように視線をこちらに投げかけてくる。
「きゃっ」
何とか動かせた右手で、ティチエルを引き寄せる。
柔らかく輝くプラチナブロンドの髪の毛からは、シャンプーの香りなのだろうか、フルーティローズの香りがした。
「ぼ、ボリスさん・・・・・・・・・・・?」
薄いシャツ一枚を隔てて伝わってくる暖かさ。彼女の耳が、少しだけ赤くなった。



「・・・・・・・・・・・・好きだ」



ぽつり、となんでもないように呟く。
ティチエルが少しだけ、しかし殆ど力が入っていない右手に負担がかからないように顔を上げた。
何を言われたのかわからないと言うような顔を一瞬だけして、
「・・・・・・えっ・・・・・・今、何」
口封じに、唇を塞いでやった。
「んっ・・・・・・・・・」
ティチエルが少しだけ体をこわばらせたが、そのまま受け入れるようにゆっくりと目を閉じた。


















やっと出来た仲間と 守りたい人
気づいたときには 手遅れだったのだろうか
そんなことはなかった
俺は 彼女を大切にしたい
大切な 大好きな 彼女を




































あとがき
うはーーーー!なんじゃこりゃーーーーーーーーーーーーーーー!
TW小説の処女作がこんなのでいいのかしら!血物じゃないか!
こう言うの苦手な人もいるのに・・・(((((;゜д゜;)))))
次は殺しません!

なんだか、キスでしめるなぁ・・・。
シリアスな感じだったのに、最後のほうがボリティチにしてはちょっと甘い過ぎたかも知れない(・ω・;A)
次はシベナヤでも書いてみようかなぁ?(逃げた
は、反省してますっ!!