ピクニック・ハーティフル
ぴちちちち・・・・・・・・・・・・・・・・・・チュンチュン・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なんでこんな事態になっているのかが、全くわからない。
「ティチエル、サンドイッチ取ってくれる?」
「はーい!何サンドがいいですかぁー?」
「うーん、じゃあ卵サンドにしようかなぁー」
「私は・・・・・・ハニーベアサンド・・・・・・・・・・・・」
「おっ、ついでにあたしのも取ってくれよ。あたしもハニーベアサンド!」
「僕も頼める?僕は蜂蜜サンド!」
「とにかく肉が入ったやつ。なるべく大きいの」
「スパイシーチキンサンドあるか?それヨロシク!」
「はーい♪」
・・・・・・・・・・・・なんでシャドウ&アッシュのやつらとのんびり昼飯なんか食っているんだ!!
「ボリスさんは、何が良いですか?私のお勧めはハニーベアサンドですよっ♪」
「・・・・・・・・・・・・」
本格的に頭痛が酷くなってきた。と言うより、ここまでの記憶が無い。
「あははっ!ボリスったら照れてる!」
「あいつも照れるんだなぁ!」
「おーおー!ラブラブー!」
「あっつくるしい・・・・・・・・・・・・」
外野がひゅーひゅーとはやし立てる。
ティチエルが真に受けて、「えぇっ!?ぇと・・・そんな・・・・・・」まんざらでもないような顔をしてこちらの顔色を伺うようにちらりと視線をよこした。
視線に気づかない振りをして、ティチエルが置いたバスケットの中から、サンドイッチを一つ乱暴に取り出し頬張る。
それを見て、マキシミンが
「ああーーーーーー!!テメ俺の肉盛サンドをよくもぉぉぉぉッッ!!」
ウザイので無視をしていると、なだめるイスピンを振り払ってこちらに飛び掛ってきた。
敵意をむき出しに飛び掛ってきたので、本能的に身をかわしマキシミンの腹に膝蹴りを食らわせてしまった。
「あ」
「げふ・・・・・・・・・」
ぐちゃっと言う音を響かせて、マキシミンがサンドイッチの入っているバスケットに顔から突っ伏す。
「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」
妙な沈黙が流れた後。
「「「「「ああぁぁああぁぁぁあああああぁぁぁぁああぁあぁぁ!!!!!!!」」」」」
俺と気絶しているマキシミンとティチエル以外の五人が盛大な悲鳴を上げた。五月蝿い。
「てめーボリス!!何てことしたんだ!!可愛いレディの作った愛情てんこ盛りの手作りサンドをグチャグチャにしやがって!!酷い!酷す」
シベリンがそこまでまくし立てたところで、レイが八つ当たり気味にシベリンを渾身の力で殴り飛ばす。こちらへの敵意をむき出しにして、
「・・・・・・・・・・・・ハニーベアサンド・・・・・・・・・・・・」
口と両手にクナイを五つずつ持って、すさまじい殺気を立ち上らせている。
「ボリスー!酷いよー!僕楽しみにしてたのにーーーーー!」
「せっかく作ってくれたのに・・・・・・・・・・・・」
「ボリスっ!ティチエルが一人で朝早くから作ったんだぞ!なんて事をするんだ!」
そういわれて、初めてハッとティチエルに視線を向ける。
呆然としたような顔で、マキシミンの顔の下のぐちゃぐちゃになったサンドイッチやサラダ、それからデザートと思われるゼリーを凝視して固まっている。
「あ・・・・・・・・・」
悪い事をしたと、今気がつく自分が恥ずかしい。謝ろうとして、声を絞り出そうとするが、上手く出てこない。
再び、沈黙が降りる。
「・・・・・・・・・あははっ・・・・・・・・・ボリスさんたら、戦士の心得が身についていてしまってますねっ・・・・・・」
ニコリといつもの笑顔を向けられて胸が痛む。絶対に無理をしている。
「大丈夫ですよっ!このくらい。数は少なくなっちゃうけれど、今すぐにでも作れますから!」
顔を隠すように、マキシミンの顔に手を添えてナプキンで顔についたジャムや油をふき取っていく。
責める様な視線が五つ(そのうち殆どは殺気)、直に肌に突き刺さる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ふぅーっ・・・・・・・・・」
視線と殺気に居た堪れなくなって、少し遠くに見つけた大樹の陰に逃げ込むように体を隠した。
痛い視線が届かなくなって、変な安堵感を得る。
(ぁー・・・・・・・・・・・・)
堅い樹の幹に頭を預け、わずかに葉の匂いがする木漏れ日を浴びる。
別に、ティチエルが嫌なわけではない。全然違う。
むしろ嬉しいほど・・・・・・だったかもしれない。
だけど素直になれなかっただけなはずなのに・・・・・・。
(どうして何時もこうなる・・・・・・)
ギャラリーがはやし立てるのも問題だ。もちろん、責任は自分にあるが。
(もう少し素直になれないのか・・・・・・・・・)
長く、深い溜息をつく。もういやだ。
と、視界の隅の草むらで生物の気配を感じた。条件反射で剣を構える。
ここは比較的穏やかで、モンスターもあまり居ない丘だが、少し奥へ進めば強力なモンスターがわんさか居る。
その一体がこちらの丘に紛れ込んでいたとしたら・・・・・・。
こめかみから顎にかけて、一粒の汗が滑り落ちる。それはこの初夏の暑さのせいじゃない。
じり、と草むらとの間合いをつめる。
ガサッ
何かが居る事が判明したと認識した途端、草むらに向かって剣を薙ぐ。
ザンッ!!
「きゃあ!!」
短く高い悲鳴が上がったかと思うと、「きゃぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!」と声の尾を引き、どんどん小さくなって丘の下へ消えていく。
「・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・」
ティチエル?
(やばっ・・・・・・)
そういえば、この丘は断崖絶壁の上にある。ピクニックを広げている場所は一番景色が綺麗で、見晴らしのいい場所だった。つまり絶壁側。
そしてティチエル(と思しき人)が転がっていった方向は―――――
深い森。
その事に気づいた瞬間、転がるように坂を駆け下りていた。
この坂道はかなり急らしく、走っていくとどんどん速度を上げていく。もう足は止まらない。
周りの景色が音を立てて頬を切る。風の抵抗が強く、思ったように進めない。
考える事に夢中で気づいていなかったが、前方に巨大な岩が迫ってきていた。
しかし急には止まれず、咄嗟に受身を取る。
バンッ!!
「・・・・・・・・・っあ・・・・・・・っ・・・・・・!!」
どっか折れた。骨がぎしぎし軋む音がわずかに体内から聞こえる。
腰に挿してあった鞘から剣を抜き、それを支えにして立ち上がる。
きゃぁぁぁぁっ
「ティチエル・・・・・・?」
岩の向こうから(崖からだろうか、響いている)、どこかが抜けた緊迫感の無い声が聞こえてきた。近い。
体を起こし(どうやら折れたのは、身体と岩に挟まれた左手のようだった)、半ば引き摺るようにして坂を下りる。
と、
スコーン!!!
「ぅあ・・・・・・!?」
顔面に何かがすごい勢いで飛んできた。無論直撃。しばし苦痛に顔をゆがめながらも耐える。
それはころころと転がり、3歩ほど先の崖へ消えていった。杖だった。
痛みが薄れてくるのと同時に、きゃあきゃあという悲鳴が頭にわんわん響きはじめる。
それをすぐにティチエルの声とすぐに認識し、崖に近寄り覗き込む。
覗き込んだ瞬間、目の前に何かがブンッと音を立てて通り過ぎた。驚いて一旦退く。
内心でかなり冷や汗をかきながら、もう一度覗き込む・・・・・・
「ティチエル!」
「ボリスさんっ?」
ひとまずその姿を見つけほっと短く息をつく。が、真下の光景に再び警戒態勢を取る。
ティチエルの服の襟首の辺りが崖から唐突に突き出ている太い枝に引っかかっている。
それはいいとして、その下に口を大きく開けているモンスターの姿が見えた。
ちろちろと舌をティチエルの足に引っ掛けようとしている。
そのたびにティチエルがばたばたと抵抗し、持っているバスケットを振り回す。
・・・・・・さっき目の前を通りすぎたのはバスケットだったのか・・・・・・。
「んきゃぁ!!」
ひときわ高く大きな声でティチエルが悲鳴を上げた。ハッとして目線を下に戻すと、モンスターの舌がティチエルの左足に絡まっている。
そのままぐんっと引っ張られるのを見て、慌てて右手でティチエルの左手を掴む。
が。
「ぅおぁっ・・・・・・!」
左手が折れていた事をいまさら思い出すが時すでに遅し。
モンスターに引っ張られるがままに、下に広がる森へティチエルともども落下した。
「きゃぁぁあぁああぁぁあぁあ!!」
「ぅ・・・・・・・・・」
なんだ、身体が酷く痛む。何も聞こえないし、何も見えない・・・。
あぁそうだ。崖から落ちたんだっけ・・・・・・・・・。
「ボリスさんー!起きてくださいーーーー!」
唐突に聴覚が機能し始める。耳元で、しかも大声で叫ばれたのでぐわんぐわんと音を立てて頭をかき乱される。
「て、ティチエル・・・。」
痛む身体を起こし、ティチエルに声をかける。ホッとしたのか、ティチエルの顔がくしゃっとなる。
「よ、かった。ボリスさん、に幾らヒールかけ、ても、起きないんですもん・・・っ」
時々しゃくりあげながら、きゅっと背中に手を回し抱きついてきた。
身体の温度が、一気に何度か上がる。
「ぁー・・・・・・・・・泣くな、ほら。俺は生きてるだろ?それに、ティチエルのおかげで骨折も直ったよ」
ティチエルが顔をあげる。その隙に涙を掬い取る。
どうやら、崖から落ちたときにがむしゃらに剣を振るっていたらしい。モンスターの肉片があちらこちらに飛び散っている。
「ぇと、これ、ボリスさんに・・・・・・」
ごそごそとバスケットの中を慌てて引っ掻き回し始める。
少しして、お目当てのものを見つけたのかぱあっと顔を輝かせる。
「はい、これ。ハニーベアサンドですっ!」
ティチエルの手に、パンの間から蜂蜜がはみ出して、野草がはさまったサンドイッチがある。
「ボリスさん何も食べていないでしょう?ティチエルが頑張ってお弁当を直したんです!」
にこにこと満面の笑みを輝かせてティチエルが言う。
先ほどの出来事を思い出して、こくり、と頭をたれる。
「さっき・・・ごめん」
ぼそり、とほぼ呟くような感じで謝る。それを聞いて、ティチエルがにっこりと微笑む。
「いいんですよ、私は皆においしいものを食べていただければ、それで満足なんです!」
そういってハニーベアサンドを無理矢理俺の手に握らせた。
「はい、食べてください!」
何かを期待する眼差しでこちらの口元をじーっと見ている・・・・・・。
ぱく。
甘いジャムと蜂蜜。野草の微かな苦さ、スライスされたハニーベアのベーコン・・・。
口の中で、甘さがほわり、と広がる。
「美味しいよ」
素直な感想を述べると、
「よかったぁ・・・」
心底安心したように、ほっと胸をなでおろしている。
(可愛い・・・・・・・・・)
どこかで、そんなことを考えていた。ああ、そうだ。素直にするにはこうすればいいんだ。
さっとティチエルの目を隠し、顔を寄せる。
「ボリスさ・・・」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
上方からすさまじい悲鳴。
ルシアン?―――――そう認識した瞬間、後頭部にルシアン(だと思う)の踵と思われるものが直撃した。
「ぐぁ・・・・・・」
今日はどこかにぶつけてばかりだ。内心では半泣きだった。
むくり、とルシアンが起き上がり、頭にできた大きなたんこぶなんか気にも留めず喋り捲る。
「あはははは!あー面白かった!ここの坂転がり落ちるのって、すごく楽しいね!」
「危ないからやめてくれ・・・・・・」
ずきずきとこめかみの辺りが痛む。なんでたんこぶだけですむんだ・・・・・・。
「ミラさんが呼んでたよ。早く行かないと怒られちゃうよ!」
「ああ。分かった。行こう」
さっそくルシアンが崖を上り始める。ちら、と横目でティチエルを盗み見る。
顔を真っ赤にして、口を覆っている。目線がバチリ、とあうとさっと目線をはずす。
(・・・・・・・・・もう少しだったのに)
ちょっと残念な気持で、あれから一口も食べていなかったサンドイッチをもう一口頬張る。
甘い、甘いジャムと蜂蜜。
この甘さは、決して料理だけのせいではない。
あとがき
ぇぇぇぇぇ。これで終わりかよ。
ギャグとシリアスの変わり目が激しすぎる。ギャップありすぎだ!!
結果的には、ボリスはキスできてません。残念(何
かなーり無理のある設定ですが、楽しんでいただけたら幸いですっ・・・。
Nino様HITおめでとうございます!