WITCH・TORIP・TO・WOLF
第五話 森の泣き声のその先の闇
「おら、起きろ」
背中を蹴られたような重量感に、渋々目を開ける。
「んー・・・・・・あー!よく寝たぁ!」
「・・・・・・半日前に幻覚が見えておびえてた人間とはおもえねぇな」
「ぇ?ああ、あれね!私は切り替えが早いのが長所なの!」
森の光を盛大に浴びて、リーティは伸びをする。
そろそろ本格的に寒くなってきた。が、この森は寒さにも負けずに青々と葉を茂らせている。
「・・・・・・アントワの実が切れちまった・・・・・・」
ボソッと、ヴィズが呟く。
「え?じゃあ採りに行ってこよっか?」
「・・・・・・・・・俺も行く」
「はぇ!?」
リーティが間の抜けた声を上げる。
いつもは消極的なヴィズの口から、そんな言葉が出るとは思っていなかったからだ。
「えっと・・・まぁ、いいけど!」
驚きを誤魔化す用にあわてて言う。
「・・・・・・・・・」
無言で立ち上がると、ひらひらと手招きをした。
「?」
「こっち来い」
言われた通りヴィズの横に行く。
「ねぇ、なにをする・・・・・・」
リーティが言い終わらないうちに、ヴィズに抱えられた。
「・・・・・・っ!?ちょ、何やってんのよ!!」
ヴィズは涼しそうに、表情を変えずに言う。
「こっちのほうがはえーんだよ」
「そう言う問題じゃないでしょうがっっ!!」
「しっかりつかまっとけ」
無表情のヴィズはリーティの言葉を無視し、ぐっとつま先に力を入れる。
ヒュンッ・・・
「ぇ・・・・・・っ!?」
物凄いスピードで景色が流れていく。まるで突風にでもなったようだった。
息さえもつけないほど早く、肌を切り裂きそうなほど強く。
「ヴィ・・・ずっ・・・・・・ちょっと苦し・・・・・・」
「後少しだから我慢しろ」
それ以上会話が続かない。仕方なく、我慢する事にした。
(なんなのよ・・・・・・!てかなんでアンタは平気なのよ!!)
色々な不満を抱えて、リーティは息を吸おうとする。
と。
ピカッ!!
「きゃっ!?」
「・・・・・・ほら、目ぇあけてみろ」
遠くのほうでヴィズの声が聞こえる。
「え・・・・・・・・・・・・・?」
ゆっくりと目を開ける。そこには・・・・・・
「わ・・・ぁ・・・っ!!」
よく熟れた実が生っている樹が数え切れないほど並んでいた。
「すごい!何ここ!」
リーティが幾つかをもぎ取って観察する。
樹に生っているのは、どれもよく熟れていて、艶があり、大きかった。
リーティの知らない果実も沢山あった。
「ここは・・・俺の秘密の場所なんだ」
ヴィズが近寄ってきて言う。
リーティがヴィズの顔を見ると、本当に幸せそうな笑顔があった。
「・・・ぁ・・・」
「ここはな、どこからも見えない場所なんだ。果実の光は周りの黒い樹に隠されるし、樹の上のほうが黒いから、空からも分からない」
笑顔で語るヴィズは、はっきり言って奇妙だった。
狼男は光り輝くモノが大嫌いなはずだからだ。
「ここは・・・自然に出来たところなの?」
リーティが問う。はっと、ヴィズの顔がいつもの無表情に戻る。
「・・・・・・ああ」
目を落とす。リーティにはその意味が分からなかった。
「・・・・・・クレシスの実ってね、アントワの実とよくあうんだよ」
沈黙を破ろうと、話題を変える。クレシスの樹に近づくと、艶やかな実を幾つもぐ。
それをヴィズに渡す。ヴィズがジッとクレシスの実を見つめる。
クレシスの実は、黄色がかかった白で、光沢がある。瑞々しさがあふれ出ている。
「少し酸っぱいかも。でも美味しいよ」
ぱく、とリーティがクレシスの実を口に運ぶ。それを見て、ヴィズも少しだけかじる。
とたんに、顔をしかめる。
「・・・っ・・・・・・クソ酸っぱい・・・・・・」
「あはは」
和やかな時間だった。
と、ヴィズがいきなり立ち上がった。
「どうしたの?」
「・・・・・・・・・・帰るぞ」
そういって、リーティを抱えようとする。
「えっ!?まだ来て1時間も経ってないよ!?」
「果実は採集できた。もうここに用は無い。こないのなら、先に行くぞ」
「ちょぉーっとまってぇぇーっ!!」
本当に先にいってしまいそうな勢いのヴィズの左腕を掴む。
「痛っ・・・!」
怪我していたという事を思い出し、あわてて手を離す。
「ごめん、ごめん。でも納得いかないの。どうしてこんなに早く帰らなきゃいけないの?」
「・・・・・・夜になるまでに、ここを出ないといけない理由があるからだ」
初めてのまともな返事に驚きながらも、リーティは更に問う。
「その理由って?」
「・・・・・・・・・・・・」
これ以上聞いても何にもならないと悟ったリーティは「はぁ」とため息をついた。
「分かった。誰にでも言いたくない事はあるから、無理には聞かない。でも、もう少し居ようよ」
「・・・・・・ぁあ」
にっこりと、リーティが笑う。ヴィズは相変わらず無表情だが、この場所を気に入っているのは本当らしく、それほど嫌がらなかった。
「んぁ〜・・・ちょっと眠くなってきちゃった・・・」
「寝てろよ。丁度いいところでたたき起こしてやるから」
「はいはい。じゃあよろしくね」
トミットリの樹に体を預けて、リーティは深い眠りにつく。
樹のざわめきが一層強くなったところで、リーティの意識は完全に切れた。