WITCH・TORIP・TO・WOLF
第四話 天秤の錘の重さと軽さ
「・・・ヴィズ・・・」
月が怪しく光っている。ヴィズはまだ帰ってこない。
(まさか・・・あたしの代わりに死んじゃったんじゃ・・・)
いくら敵といえども、一応恩人のヴィズに、恩返しも出来ないままなのは居心地が悪い。
それに、あの攻撃は明らかにリーティを狙っていた。その身代わりとして死んでしまったのなら、更に居た堪れない気持ちになる。
暗い森で独りぼっち。それも辛かった。
「・・・・・・最後まで面倒見なさいよ・・・・・・」
毛布に顔を埋める。さっきの攻撃で汚れてしまい、土のにおいがする。
かさっ
ふと、背後でわずかだが草が踏まれる音が聞こえた。
毛布を跳ね除け振り返る。
「・・・・・・ヴィズ・・・・・・!」
「・・・・・・遅くなった」
ヴィズは、相変わらずのそっけない口調でリーティの前に座る。
何事も無かったかのように火を焚き始める。
「ちょ・・・!?半日も居なくてそれだけ!?」
「ぁー?」
だるそうに返事をする。リーティを見ようともしない。
「どれだけ心配したか分かってるの!?」
「・・・だからな、攻撃したやつらを追いかけてたんだよ」
とって付けたように言う。理由としては成り立っているが、リーティは納得いかない。
「じゃあ・・・・・・そいつらは誰だったの?」
「・・・・・・見失っちまった」
手際よく、残ったアントワの実の皮を剥いていく。パチパチと、焚き火が音を立てる。
その焚き火に照らされて、紅いアントワの実が一層紅く見える。
「・・・・・・怪我は?」
「無い」
短くそう言う。だが、左手が震えている事にリーティが気づいた。
音を立てないように膝を立てて、左手のほうに手をもっていく。
そして思いっきり腕を引っ張り、衣服を捲った。
「・・・・・・痛・・・・・・っ!!」
「っ!?何よこの傷!!」
左腕全体に、引っ掻かれたような傷があった。それも、深く食い込んだような傷だった。
ヴィズが乱暴に手を引き戻す。
「それが無いに入るの!?なんで隠すの!?」
「・・・・・・うるせぇ」
先ほどと同じように皮を剥き始める。それがリーティを煽った。
すっくと立ち上がると、ヴィズの手からアントワの実を奪い取って遠くに投げた。
何が起こったのか情報処理が追いつかないらしく、ヴィズはアントワの実があった、今は空っぽの手を凝視している。
さらにリーティは、ヴィズの左腕を無理矢理掴んで衣服を裂き始めた。
さすがに理解できたらしく、
「・・・てめぇ・・・・・・こんな事が許されると思ってんのか・・・!?」
「うるさいっ!!」
ヴィズに負けない気迫でリーティが言い返す。傷口に手を当てる。
「・・・・・・うわっ・・・・・・!!いてぇっつってんだろーが!!!」
じたばたとリーティの手を剥ぎ取ろうとする。そんな事はお構いなしに、リーティが呪文を唱える。
「癒しの天使・・・ヒーリアよ・・・・・・この者の毒を癒したまえ・・・ヒーリング!!」
ポゥ・・・
リーティの手から光が放たれる。優しい色の光が、傷口に入っていくと、傷は跡形も無く消えた。
「はいっ。痛くしてごめんね」
「・・・・・・・・・・・・」
「無事でよかった!傷も治った!ちゃんと言ってね?借りもあるんだし」
「・・・・・・・・・・・・」
無言で、最後の一個のアントワの実の皮を剥き始める。
「もう私寝るね」
跳ね飛ばした毛布を拾いにいく。その向こうに、さっき投げたアントワの実が無残な姿で潰れていた。
今頃になって恥ずかしくなってきたリーティは、ヴィズを見ないよう毛布を頭からすっぽりと被った。
その時風が一層強くなって、木々を揺らしざわめかせた。
そのざわめきのかなで聞こえた、低くて、少しかすれた声
「・・・・・・ありがとな」
―――――・・・ん・・・何・・・・・・?
なんか・・・・・・体が・・・・・・
・・・重い・・・・・・な・・・・・・に・・・・・・?
リーティが首を動かし、重さの正体を見ようとする。
―――――何かが体の上に乗っている!!
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
咄嗟に、リーティは声をあげた。森にリーティの声が響き渡る。
「どうした!?」
いつの間にか隣にいたヴィズが起き上がる。
リーティに圧し掛かっていたモノは消えていた。
「・・・・・・なんでもない」
「・・・・・・あんだよ・・・うるせぇよ」
そう言うと、再び毛布に包まって、すーすーと寝息を立て始めた。
「・・・・・・・・・・・・」
リーティの心に、理解できないようなモヤモヤした気持ちが広がった。