アリスの誓い


第一節



ハートにスペード

クローバーにダイヤ

赤と黒の世界で

僕は生きている

「ありす様」

スペードの兵が

僕を呼ぶ

人さえも 赤と黒で出来ている

赤と黒なんて

大嫌いだ

「お食事ができました」





食事まで

赤と黒のものばかり

チェリー 赤ワイン ストロベリー

トリュフ キャビア チョコレート

気がおかしくなりそうだ




今日は月がよく見える

銀色の光を背に受けながら

大地を蹴り上げる足を

とめない

絶好の脱走日和とはいえないけれど

赤と黒から逃げ出すために

僕は手放す

赤と黒を

神に誓う

もう二度と

あそこには戻らない

赤と黒を愛さない


赤と黒に支配された世界は

ひょうしぬけるほど簡単に

僕を解放した

一度だけ振り返り 夜空を切り裂く城の塔を見る

赤いレンガで造られた 黒い縁の窓がある

僕の 城

それがどんどん遠ざかっていって

僕は知らぬ間に 笑みを浮かべていた

今 僕は

翠と 藍色と 茶色の

落ち着く色の中を走っている

赤と黒なんて

何処にも無―――

「!!」

突然 樹の陰から

赤が飛び込んできた

「きゃあっ」

咄嗟に止まる事が出来ず

正面からぶつかる

女 の声

どうやら尻餅をついたようで

どさり と小さい衝撃を感じた



僕にぶつかってくるなんて たいした度胸だ

今の僕は気分が良い

お前の顔を見て それから罵るだけで勘弁してやる

丁度 月の光が

起き上がろうと 手をつく女に降り注いだ





―――――嘘だろ・

僕と同じプラチナブロンドの髪の毛

夜空のように輝く蒼い瞳

僕と同じ

・・・気持ち悪い

鏡を見ているみたいで

凄く嫌だ

「あっ・・・!貴方、スペード王国の王子ありすね!」

僕の名前を呼ぶな

黒の『スペード』なんて大嫌いだ

「あたしもアリスって言うんだよ!隣国のハート王国のお姫様!」

・・・なんだって?

「あははっ姿かたちまで同じだね」

同じ・・・

こんな赤と黒だらけのお前と一緒にするな!!

「・・・赤と黒、嫌いなの?」

ああそうさ

赤と黒なんて滅びてしまえ

僕は二度とあの城にも国にも戻らない

赤と黒を愛さないって誓ったんだ

「・・・ありす、も、色々大変なのね」

気安く僕の名前を呼ぶな

「もう国に戻らないんだったら、王子じゃないんだから、別にいいでしょ」

くすくすと楽しそうに 女が笑うたびに 沸々と怒りがこみ上げる

笑うな

笑うたびに揺れる お前の髪の毛が 気持ち悪い

「ありすが誓いを聞かせてくれたんだから あたしも何か聞かせないとね」

もう消えてくれ

「あたしの誓いはね」

聞きたくもないんだよ

「全てのものを愛する」

「・・・は?」

思わず声が漏れた

何を言っているんだ こいつは

「全てのものを愛して 心から愛して そして皆で暮らすの」

いい子ぶりやがって

「ねえ あたし達が出逢ったのって 運命かもね」

運命?

「あたしと貴方 正反対で 隣国の王族」

何を言いたいんだ

「ここで出逢ったのも 愛するという事」

愛する・・・・・・?