第3場面 リターン・リヴォイス




くっそお・・・!!ダガーが離れていく・・・!
手が・・・届かない・・・・・・
嫌だ・・・もう離したくないんだよ・・・!!
「ダガーっ!!」

フォンッ

「・・・・・・え?」
手を前へ伸ばし、足を踏ん張るような体制で、ジタンはそこにいた。
「・・・ダガー?」
ゴウン・・・ゴウン・・・
足から伝わってくる―――――エンジンの音。
(・・・飛空挺・・・なのか・・・・・・?なんでここに・・・俺がいるんだ?)
自分に問いかけても、答えは返ってこない。仕方なく、状況を把握するために散策する事にした。
薄暗いので、よく見えない。と、目の前に銀色に光る棒があった。
それは少し錆びれている上り棒だった。不思議な事に、かなり前から知っているようなそんな感じがした。
そっと、上り棒に触れてみる。と、
ガクンッ
「ぅわッ!?」
飛空挺が大きく揺れる。それによって、ジタンは上り棒に突っ込み、勢いに任せてするすると降りる羽目になった。
「って〜・・・」
ドシン。と音を立てて尻から床に着地した。目を上げると、そこにはやはり見覚えのある扉。
「・・・・・・?」
無意識に手をかける。ゆっくりと、ドアを開ける。
真っ暗。闇。何も見えなかった。その闇にさえも、前にもどこかで感じた記憶があった。
「・・・・・・なにもみえねぇな・・・」
ポツリと呟く。だんだん目が慣れてくると、部屋の中に何があるのか分かってきた。
真ん中に、大きなテーブル。その上には少し溶けたロウソク。奥のほうには、なにやら色々な機材があるようだった。
「火ぃ付けるか・・・」
ポケットに入っていたマッチを取り出す。と、ここで一つ疑問が浮かぶ。
(・・・俺・・・マッチなんて持ってたか・・・?)
さっきまで劇中だった自分が、そんなものを持っているはずが無い。今回の衣装はごわごわしていて摩擦がおきやすいような衣装。
だったらなおさら変だ。火がついたりでもしたら大変だ。
(衣装・・・?・・・なんで普段着着てんだ・・・?)
服を触ってみる。いつもの普段着に違いなかった。
(・・・・・・何なんだよッ!どうなってんだ・・・!?)
とりあえず、不審な目を向けながらマッチを擦り、ロウソクに火をつける。
ポウ・・・
小さいが、暖かな光が部屋を照らす。
「誰だ!!」
「ッッ!?」
突然、部屋の右側の部屋から声が聞こえてくる。
(・・・・・・ちょっと待てよ。このシチュエーション・・・どこかで・・・)
「オレだよ、ジタンだよ」
ドアのガラスにとんかちの影が揺れたので、早口に言う。
「ジタン!遅かったずらね」
「す・・・すまん」
(・・・なんだ・・・この違和感・・・)
「ところで、ボスはどこにいったんッすかね」
続いて出てきたマーカスが言う。
ジタンの違和感が、だんだんと明らかになっていくようだった。
(・・・・・・まさか・・・・・・)
ズドォォン!!
「「「!?」」」
「ウガーッ!!」
左側のドアから、龍のような被り物を被った人物が現れる。
途端、戦闘になる。記憶のピースがどんどんはめ込まれていくように、ジタンの記憶が鮮明に蘇る。
(嘘だろ!?これって・・・!)

―――――俺達がダガーを誘拐しようとした時―――――

「うりゃぁっ!」
バクーが声を上げながら3人に襲い掛かる。
マーカスとシナはよけたが、ジタンは唖然としていて、その場から動けない。バクーの剣が 直撃する。
「・・・ッ!!」
「ジタン!」
「ジタンさん!」
おもちゃの剣なので、それほどダメージは無いが、それでも血がドクドクと流れ出てくる。
(・・・・・・過去に・・・来たっていうのか・・・!?)
再び振りかざされた剣を腰にさしていたダガーで跳ね返す。バランスを崩したバクーがしりもちをつく。
「うぉっと・・・」
その隙に、ジタンがバクーの被り物を切る。被り物を剥がされたバクーが、頭を抱えて叫ぶ。
「グハーーーーーーーーーッ!頭がいてぇ!ちったあ手ぇ抜かねぇかッ!」
頭を押さえながらもニヤッと笑い、肩で息をするジタン達を見回す。
「おめーらっ!なかなかウデを上げたじゃねえか!」
ジタンの金色の髪をわしゃわしゃと撫でくり回す。
「ガハハハハ!」
豪快に笑うと、右側の扉へ歩み寄っていく。くるっと振り向いて、再び大きな声で言う。
「さぁッ!会議、はじめんど!!」
シナとマーカスが渋々立ち上がり、部屋へ入る。ジタンだけが、目を丸くして3人の入っていった部屋を凝視していた。
(一字一句・・・全て同じだ・・・!!)
「ジタン!もたもたすんな!」
「ぁ・・・おう・・・」
適当に返事をする。心臓がバクバクと高鳴るのが、全身に伝わって震える。心臓の鼓動しか聞こえなくなってしまうほどだった。
「今日の作戦の確認だっ!!」
全員が座ったのを見て、バクーが言う。と、ここで一人足りない事に気づいたようだった。
「ブランクはどうした?」
「兄キなら・・・」
マーカスが言い終わらないうちに、ブランクが滑り込んできた。
「遅れた。すまん!」
「時間は厳守だといってるだろーが!」
「すまねえ」
すまなそうに顔を少し俯かせる。当然、演技だ。過去と違う出来事に、ジタンは少しだけ安心した。
(ここは・・・前と違う・・・でもなんでここだけ違うんだ・・・・・・?)
「我らの目指すはアレクサンドリア王国・・・・・・」
バクーが懐からダガーと見立てた女の子の人形を取り出す。
「そして我ら盗賊タンタラス団の目的は、この国の王女、ガーネット姫をかっさらうことだっ!!」
見せ場といわんばかりに、手を振り上げて大げさに言う。すっくとシナが立ち上がる。
「さて、あとは、おいらが説明するずら。もうすぐ、おいらたちの乗っている船がアレクサンドリアに到着するずらよ。
 到着したら、俺達は平然とした顔をして・・・・・・アレクサンドリアで大人気の芝居『君の小鳥になりたい』を演じるずら!頼むずらよ!主役のマーカスさん!」
「頑張るっス!だけど誘拐作戦の主役は、ジタンさんとブランク兄キっス!」
いきなり話題が振られて、ジタンは言葉が出てこない。しかし、ここはブランクが答える場面だったらい。ブリ虫を取り出して涼しい顔で言う。
「幕間に俺がこいつで城の連中を混乱させる・・・・・・と。だけど、このブリ虫ってのは苦手だぜ。
 まあ仕方ないから我慢するけどよ・・・・・・。で、そのあとは、ジタン、お前の出番だぜ!」
「えっ・・・あーと・・・」
(2年前のセリフなんて覚えていられるか!)
心の中で叫ぶ。しかし、記憶が残っているのはジタンだけらしく、誰も助けてはくれない。
(くっそぉ・・・2年前と同じやり取りを見ていると、精神的におかしくなってきそうだ・・・・・・気持ち悪りぃ・・・)
「ええと・・・その隙にガーネット姫を誘拐すればいいんだな?」
いっぱいいっぱいに、とりあえず思いついた言葉を口にする。バクーは満足そうに、
「そうだ〜、我々が誘拐するのは、アレクサンドリアはじまって以来の美姫と名高いガーネット姫!!!」
(何もかもまで一緒かよ!!何なんだよここは!!!!)
一人で頭を悩ます。共感してくれる人は誰もいない。まるで、新しいクラスで一人だけ友達が居ない寂しい子のようだった。


ジタン達の乗る飛空挺―――――劇場船は、アレクサンドリアの城下町の真上を通る。
子供達が2年前と同じように空を見上げ、2年前と同じ笑顔ではしゃいでいる。
劇場船をおって、城下町を走っていく。
その流れに押されて、一人の男の子が転んだ。
手に持っていたチケットが、ふわりと浮かんでおちる。
「ねぇ、だいじょ〜ぶ?」
それに気づいた一人の女の子が言う。男の子が大きなとんがり帽子を被りなおしながら立ち上がる。
「ハイ!大切なチケット!」
笑顔で言う女の子の手からチケットを受け取る。女の子はそのまま走り去ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・」
蒼いローブが、風に揺れる。


チッチッチッチッチ・・・・・・
控え室。色々な衣装、化粧道具、裁縫箱など、色々な物がぐちゃぐちゃになって詰め込まれている。
壁にかけてある古い壁掛け時計。仇をとってやるといわんばかりに、ジタンは時計を睨む。
(くっそお・・・!何が起こったんだよ・・・!)
イライラしても何もはじまらない。そう分かってはいるものの、イライラせずにはいられない。
ふと、自分の手を見る。あの暖かいダガーの温もりは、熱は残っていなくとも記憶に確りと刻み込まれている。
(・・・・・・あの温もりだけ・・・あってくれれば良かったのに・・・・・・俺・・・欲張りすぎたのかな)
テーブルに突っ伏す。差し入れのクッキーが幾つか床に落ちた。
(・・・・・・ダガー・・・・・・。フライヤ達も・・・大丈夫かな・・・)
大丈夫。過去どうりに行けば、必ず再会できる。今のところ、異なった点はブランクの遅刻のみだ。
そう自分に言い聞かせる。目がぼやけて来ている。
(まだ開演まで時間がある・・・。落ち着かせるために・・・少し寝るか・・・)


―――――・・・ン・・・・・・ジ・・・タ・・・ン・・・・・・・・・
「ジタン!!」
「おわぁッ!?」
いきなり何かで背中をたたかれた。数センチ飛び上がり、見事に顔から着地した。
「ってぇ〜・・・誰だよっ・・・」
振り向いたその先に、ジタンが会いたかった人物が、キレイな衣装をまとってそこにいた。
「・・・ダガー・・・!!」
ギュッとダガーを抱きしめる。ダガーも頬を赤らめながら、ジタンの胸に顔をうずめる。
「ダガー・・・!怪我とか無いか?」
「うん・・・ジタン・・・会いたかった・・・」
ぽろぽろとダガーが涙を流す。再び、ジタンがダガーを抱きしめ、優しく頭をなでる。
「ジタン・・・何が起こっているの・・・?」
目を赤く腫らし、潤む瞳で問う。ジタンは少々口ごもりながら、淡々と話していく。
「これは・・・俺の考えだが・・・声、ダガーにも聞こえただろ?」
コクリとダガーが頷く。それを確認して、再び話し出す。
「あの声・・・『もう一度』って言ってただろ?俺があの後気づいたのは、劇場船の中だった・・・。その後、2年前と同じ事が起こったんだ」
その言葉に、ダガーが顔を上げる。真っ直ぐにジタンを見つめて、震える声で言う。
「・・・・・・過去に来たってこと・・・?じゃあ・・・・・・お母様が・・・・・・亡くなるという未来を・・・・・・変えられるの・・・?」
ハッと、ジタンが中を仰ぐ。
(そうだ・・・過去へきたなら、未来が変えられる・・・。大きな被害が出る前に、クジャを止められるかもしれない・・・?)
「そうだ!きっとできる!過去にいるんだから、未来だって変えられるぜ!ダガー、頑張ればクジャだってとめられるかもしれない!」
力強いジタンの言葉に、ダガーが笑顔を見せる。
「そうね・・・!きっと大丈夫よね・・・」
「でもなぁ・・・そのためには、事情を知っている仲間がいないとダメだ・・・いまのところ、俺とダガーだけしか声が聞こえていなかったみたいだ」
「多分・・・スタイナーも聞こえていると思うわ・・・空間の歪みが始める前に、スタイナーの奇声が聞こえたから・・・!」
「・・・・・・おっさんらしい反応だな・・・・・・」
ダガーが微笑む。ジタンも、安心させる意味でニカッと笑う。
「じゃあ、まずは作戦たてねーとな。まずダガーは家出をやめる。まずそれからだな・・・」
「え・・・?どうして?」
「ダガーの家出でブラネ女王がムキになって探し始めたっていうことだろ?まあそれでムキになるブラネ女王もブラネ女王だけどな・・・まぁ、兎に角家出はやめねーと」
ダガーの笑顔が消える。それに気づかず、ジタンは話し続けている。
「うーん・・・あ、でも家出しなくても俺たちが誘拐する事になってんのか・・・・・・じゃあブラネ女王を・・・」
「・・・・・・ぅして・・・・・・」
「・・・・・・ん?」
「・・・・・・どうしてそんな事言うの!!!」
突然叫びだしたダガーを見て、ジタンがうろたえる。
「いや・・・えーと・・・」
言葉に詰まるジタンにかまわず、ダガーは訴え続ける。
「私・・・私のせいでお母様が亡くなったって・・・ずっと思っていた・・・・・・それを・・・ジタン達が忘れさせてくれたのに・・・!」
「だ、ダガー?」
「私っ!私のせいで・・・クレイラや・・・リンドブルム・・・・・・大好きなアレクサンドリアさえも・・・・・・戦乱に陥れてしまったって・・・ずっと悩んでいたの・・・・・・」
刻々と闇が迫っているのが分かる。妖しく光る紅い月が蒼い月の前に躍り出る。
「だからね・・・・・・お母様は・・・悪くないの・・・私が・・・悪かったの・・・・・・それを・・・お母様が悪かったみたいに言わないでっ!!!
とうとうダガーの想いが爆発する。涙が後から後から流れている。手にしていたアルテマウエポンが床に落ちる。
「ジタンなら・・・分かってくれると思ってたのに・・・。ジタンだけが・・・私の居場所だったのにッ!!」
たまらなくなって、ダガーが控え室から出て行く。ドアを開け放ち、暗く湿った闇へ消えていった。
「ダガー!!」


(・・・・・・確かに・・・・・・無責任だったかな・・・・・・)
キン!という金属音が夜の劇場に響く。
(・・・・・・ダガー・・・ずっとそんな事抱えてたんだな・・・・・・2年もの間・・・)
フォンッ
いきなり、耳元で空を裂く音が鳴った。我にかえったジタンは、体を思い切り後ろへそらす。1秒前に耳があったところを剣が貫く。危うく耳を持っていかれるところだった。
今はチャンバラの最中なのだ。痺れをきらしたブランクが、小声ながらもどすの聞いた声で言う。
「おい!ジタン!時空が狂ったからって劇中にはかわりないだろ!!」
ブランクの言葉に、ジタンは目を丸くする。
「・・・!?ブランク、お前ここに来る前のこと覚えてるのか!?」
「ああ。どうやらマーカス達は覚えていねぇみたいだが・・・。ジタン、こりゃはっきり言ってやばいぜ」
「・・・・・・?どういうことだ?」
「俺にはさ、お前に聞こえてた声っていうのは聞こえなかった。だがな、実際時空が狂ったのは分かる。これは過去でもなんでもねぇ」
「・・・・・・過去じゃない・・・・・・?」
「わかんねーのかよ!いいか?過去に来たはずなら、過去の俺たちがいるはずだ。それが、どうだ?居ないだろ!?」
「・・・・・・ああ」
「よく聞いとけよ?俺はそこまで記憶力がいいわけじゃあないんだ」
剣が銀色に輝き、観客を魅了する。チャンバラが終わるまであと少しだ。
「ここは、過去じゃない。なんだ。過去の風景を持ってきただけだ。何も変わらない!」
「・・・・・・?わけわかんねーよ!」
「・・・ったく・・・じゃあ聞くぜ。ジタン、お前が聞いた声を思い出してみろ。なんていっていた?」
「声・・・・・・」



お前達を再び悲しみに陥れるのだ

こんな平和なんぞ、一瞬で崩してやるわ・・・

無駄だ・・・もうお前達は我のシナリオの中にいる・・・

さあ・・・悪夢をもう一度見るがいい お前達を消してやる・・・!





「・・・・・・!!もう一度・・・・・・悪夢を見るがいい・・・って・・・」
「・・・・・・やっぱりな・・・・・・これで分かっただろ、ジタン」
キィンッッ!!
剣と剣が音を響かせる。ギラリと光る銀色の剣は、紅い月を映し出している。
2年前の赤い月とは違い、蒼い月よりも大きい。今にも蒼い月を飲み込みそうな勢いだった。
クライマックスの剣舞に、観客達がギルを投げ、歓声を上げ、口笛を鳴らし、手をたたいて楽しんでいる。
剣と剣の間の、冷たく突き刺さるような雰囲気が流れているとも知らずに。
肩で息をするブランクとジタン。
ジタンが息を整えるのを待って、ブランクが口を開く。
「・・・・・・死んだやつは戻らない。ここは過去じゃない。今なんだ。どんなに足掻いても、どんなに努力しても。ここは今だ。
 時が戻ったんじゃない。ただ姿が復元されているだけだ・・・。俺たちには何も出来ない。オルゴールのように・・・・・・繰り返されるしかないんだ」
ジタンの背中に冷たいものが走る。
ダガーの笑顔が浮かぶ。あの本当に幸せそうな微笑が、冷たい闇に消えていくのを感じた。
ブランクが目をそらす。まだいいたいことがあるようだが、ジタンはこれ以上聞ける余地はなかった。


―――――そして・・・
俺たちを完全に消すために
モンスターが強くなり
この星は


消える