第1場面 平和のカケラ



「おい!もたもたしてるな!早く機材こっちに運べ!」
「食事の材料どこにおいてありますか〜っ!?」
「なんでこんなところにバナナの皮があんだよっ!すっころんじまったじゃねーか!」
「ちょっとここに置いてある看板邪魔なんですけど!作業できない!」
今日は、アレクサンドリアの現女王、ガーネットの誕生日。
同時に、2年前の世界を救う大冒険に出てその後消息が不明になっていたジタンが、ガーネットの前に再び姿を現した日でもあった。
と言う事で、今年の誕生祭はいつもとは比べ物にならないほどの賑わいを見せていた。
「もう少しで皆に会えるのね!とても楽しみだわ」
「俺も。本当に久しぶりだよなぁ」
ダガーは体を揺らしている。手伝いたくてしょうがないようだった。
ダガーが『私も手伝います』と申し出たところ、スタイナーに猛反対されたのだ。
「ダガーが手伝いたいのは分かるけどさ、今日はダガーの誕生日なんだから!ゆっくりしようぜ。遅くまで仕事してて、少なからず疲れてんだろ?」
「うん・・・・・・・・・・そうね・・・・・・ありがとう、ジタン」
にかっと歯を見せて笑うジタン。つられて、ダガーも柔らかい笑みを浮かべる。
「そういえば、サラマンダーも来るらしいぜ」
「えっ?なんで知ってるのかしら」
「さぁ?ラニらへんが教えたんじゃねーのかな」
その回答に二人で頷く。確かにその可能性が高い。
同時に頷いたのが可笑しくて、二人は微笑む。と、

「やっほー!ジタン!エーコよ!エーコよ!ちゃんと覚えてる!?エーコだよぉーーーっ!」
突然、大きな声が頭上から響く。作業をしていた人たちが、びっくりして空を見上げる。
そこには大きな飛空挺・・・・・・・・・・・・・・・・・から落ちてくる小さな女の子がいた。
「のわあぁぁぁあぁぁぁあぁっっっ!?」
ドッシーン!
見事小さな女の子をキャッチしたジタンは、反動で床に頭を打ち付けた。
「きゃっ・・・!ジタン、大丈夫!?誰にやられたの!?」
犯人がジタンの上に乗っかったまま、ジタンを揺さぶる。
「ふわぁぁぁん!ジタンーっ!!」
「エーコ、とりあえずジタンから降りましょう、ねっ!」
小さな女の子―――――エーコ・キャルオル・ファブールは、ダガーを見ると目を輝かせた。
「ダガーっ!久しぶりーっ!元気だった!?」
「ええ。とても元気だったわ。エーコは?」
「えへへー♪エーコもとっても元気だった!」
両手をぶんぶんと振り回しながら、嬉しそうにエーコが言う。
シドの養女になったエーコは、リンドブルムの皇女となった。
最後に会ったのは半年近く前。
一見暇そうだが皇女なので色々と仕事があるらしい。
そんないつもと変わらないエーコの姿を見て、ダガーは少し安心していた。

冒険の終わりから二年、とても多くの事が変わっていた。
アレクサンドリアの人々、町並み、他国からの扱い、交流、文化・・・・・・そして、仲間との別れ。
変わりゆく今の中で、変わらないものがあるというのはとても安心できるものだった。
「・・・・・・・・・エーコ、普通に登場してくれないか?」
ジタンがむくり、と体をおこす。頭に大きなたんこぶが出来ている。なんともお約束な展開だ。
「だってぇ〜!早くジタンとダガーに会いたかったんだもん!それに、普通に登場したらアレクサンドリアのエーコファンに悪いでしょ☆」
「もし俺が受け止められなかったらどうするんだっ!」
「だってエーコ、ジタンの事信じてたから♪」
「そう言う問題じゃなくてだな・・・・・・・・・」
ジタンが再び口を開こうとした時―――――

「エエェェエェェエエェエエェコォォォオオォオオオオォオオオォォオッッッッッッ!!!!!!」
再び空に声が響く。今度はエーコの声よりも更に大きく、近所迷惑な声だった。
「うわぁぁっ!!」
「きゃっ!!」
作業をしていた人達が悲鳴を上げる。ジタンたちも例外ではない。
「ぅ・・・・・・耳がいてぇ・・・・・・」
「シ、シドのおじ様?」
耳を押さえながらダガーが誰に言うわけでもなく呟いた。
飛空挺では、今にも大空へダイブしようとしているシドを乗組員達が必死になって止めている。
「わぁぁぁぁぁっ!ワシの大事なエーコがっエーコが・・・・・・っ・・・・・・!エーコォォォォオオォオォォっ!!!」
「おとーさーん。エーコ、ここにいるよーっ!?」
耳栓をはずしながらエーコが言う。どうやら、耳栓はリンドブルムの必需品らしい。
「ぉぉぉぉぉぉ!エーコ!よかった・・・!本当に良かった・・・・・・・・・!!」
「あなた、アレクサンドリアの皆さんに迷惑です」
シドが声が聞こえた方向を見て硬直する。そこには、シドの妻、ヒルダがいた。
「ひっ・・・・・・ヒルダ!」
「そんなに大きな声を出したら皆さんが驚いてしまわれるでしょう?船室に戻りますわよ」
そう言うと、シドの襟を掴んでずるずると引きずっていく。
「エーコォォォォォォっ!!」
なんともまぬけな姿だった。
「えーと・・・・・・シドおじ様もヒルダおば様も元気なのね。よ、よかったわ」
少し引きつった笑顔でダガーがまとめる。
苦笑いしながらジタンも頷く。
「ねえジタン、エーコの『天使の笛』ってまだここにある?」
「ああ。ちゃんと武器庫にしまってあるぞ。でもなんでだ?」
「んっとね・・・せっかく来たんだから、昔の相棒と会いたくて・・・・・・・・・」
もじもじと恥ずかしそうに言う。
あの大冒険が忘れられないのだろう。
祖父の約束に背いてマダインサリから飛び出し、ジタンたちと共に進んだ冒険。
コンデヤ・パタとイーファの樹以外行った事の無かったエーコには、すばらしい冒険だったのだろう。
その冒険の最後の敵、永遠の闇を倒したエーコの武器、『天使の笛』には特別思い入れがある。
『また、冒険に行きたいなぁ・・・・・・』
口に出す事はなかったが、きっとずっとそう思っていたのだろう。
しかしエーコはもうリンドブルムの皇女。そう簡単には国を出られない。
せめて『天使の笛』だけでも。と思っていたに違いない。
その意を察したジタンは、にっこり笑って、
「今すぐ見たいんだろ?じゃあ見に行こうか。何なら、持ってってもいいぜ」
と言った。
それを聞いたエーコはハッとして顔を上げる。
「ぇ・・・!持ってっていいの!?」
「ああ。だってあれはエーコのだろ?本当は渡すつもりだったんだけど、バタバタしてたから渡せなかったんだ」
パッとエーコの顔が明るくなる。ジタンにバッと抱きつくと、
「ジタンありがとう!大好き〜〜〜〜〜っ!!!」
と、嬉しそうに言った。
「ぐぇ・・・・・・・・・え、エーコ・・・苦しい・・・・・・」
目をむき出しにして苦しそうにエーコに話しかける。それにかまわずエーコは腕に強く力を入れた。
「ジタン大好き〜〜〜〜っ!最高!やっぱりエーコの王子様!」


「足下気をつけてな」
首の湿布を触りながらジタンが言う。
時折、「イテテ」と呟いているのが相当痛かったことを現している。
暗い地下へ続く螺旋階段。所々に松明が掲げてあり、階段を照らしている。
それでも仄暗い階段を、3人は下っていく。
「アレクサンドリアも、ずいぶんキレイになってきたね!」
「ええ。一時はどうなる事かと思ったけど・・・・・・みんな強いから・・・・・・」
「リンドブルムもね、もう殆ど治ったよ!大復活!皆何時も笑顔でいるんだ〜。それがとっても嬉しいの!」
くるくると回りながら、本当に嬉しそうに言う。

さて、さっきジタンはなんて言ったでしょうか?
「足下気をつけてな」です。
武器庫へ向かう螺旋階段で。しかも滑りやすい大理石。そこでくるくる回ったらどうなるかお分かりですね。

つるっ
「ん?」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッッ
「んなぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁっっっっっっっっ!?!?!?!?」
ドッッッッッゴォォォォォォンッッッッ

「・・・・・・・・・っ!?!?」
「・・・・・・・・・!?」
突然の出来事に、二人は呆然とエーコが転がっていった方を凝視する。
「ぇえぇぇぇぇ!?エーコっ!?」
「ぇっエーコぉぉぉぉ!大丈夫ーっ!?」
やっと状況を理解したところで、二人は螺旋階段を滑るように降りていく。
エーコは丁度でんぐり返りをするような体制で武器庫の扉に大きな凹みを作っていた。
「エーコッ!大丈夫!?」
「ふわ・・・・・・だいじょーぶ・・・・・・」
いかにもお星様が飛んでいます。と言うような顔で、エーコがふらふらと立ち上がる。
「ま、まぁこんなときもあるさ!さ、さぁ・・・相棒とのご対面だぜ!」
必死に笑いを堪えているジタンを、ダガーがキッと睨む。
その瞬間、ジタンは真顔に戻る。
エホン、とわざとらしい咳払いをしてから、扉のノブに手を添える。
重く、古い木製の扉を静かに押す。

キィ・・・・・・・・・・・・
古い木製の扉が軋んだ。
「・・・・・・わぁ・・・・・・!!」
部屋の中へ足を踏み入れたエーコの口から、感嘆の声が漏れる。

何千と言う武器が、ずらりと棚に並べられていた。
中には、武器として使えるか分からないものまであった。
「すごーい!こんなに沢山の武器リンドブルムにも無いよ!」
「だろ!?かっこいい武器とかあったら買うって言うのを繰り返してたらこうなっちまってなぁ」
エーコはきょろきょろと武器庫を見回す。エーコが使える様な笛やロッドもあった。
「わー!可愛いのがいっぱい!」
あちこちを走り回り、物欲しげに笛やロッドを手にとって見ていたエーコだが、
「ねぇ、ジタン」
「ん?」
「『天使の笛』・・・どこ?」
と、寂しそうに言った。
「この奥だけど・・・急ぐのか?」
「ううん。でもね」
もう一度武器庫を見回す。
「エーコの相棒は、『天使の笛』なの!」
力強くそういった。
ジタンとダガーが驚いたようにエーコを見つめる。
同時に、それが嬉しかった。

―――――それが、冒険を共にした仲間との思い出を一番大切にしている、という暗示だと感じたから。

「よっし!じゃあ八英雄の武器を拝みに行きますか!」
「うん!」
(・・・・・・そういえば・・・・・・私も『ねこの手ラケット』や『鯨の髭』を見るのは久しぶりだな・・・)
普段、武器庫には縁がないダガーだが、やはり自分と冒険を共にした相棒を見ると言うのは、少し恥ずかしいような、嬉しいような不思議な感覚だった。
ジタンは時々ここに来て、武器を磨いているらしい。(なのでここにある武器はみんな新品のように綺麗だ。)
「さぁ!エーコの相棒とごたいめーん!」
わざとらしくポーズをとる。宙に浮かんでいるような、他とは違う鉄製の扉だった。
ジタンがノブに手をかける。
・・・ギィ・・・・・・・・・
木製の扉とは違う金属音を鳴らしながら、扉は開く。
「天使の笛!!」
エーコは吸い込まれるように扉の中へ入っていく。その後に少し急ぎ気味にダガーが入る。
「エーコの『天使の笛』!久しぶり〜〜〜〜〜っ!」
ぎゅう、と抱きしめたり、頬を摺り寄せている。その光景に、ジタンとダガーは微笑む。
「あれは・・・!『ねこの手ラケット』と『鯨の髭』!」
それを見つけると、ダガーも愛おしそうに抱く。
「お〜!俺の『アルテマウエポン』!二週間ぶりだな〜!」
持ってきていたボロ布でアルテマウエポンを磨く。
それぞれが再会を喜んでいた。
そのとき、

カタン
エーコの後ろで音がした。
「うん?」
くるり、とエーコが振り向く。
「・・・・・・・・・っ!!」
その瞬間、エーコが凍りつく。それに気づいたジタンが、
「おい、エーコ?どうした?」
「・・・ジタン!あれ・・・・・・・・・!」
「・・・っ!やべぇ・・・」
三人の目線は一つの武器に注がれていた。
その武器とは――――――――――

―――――メイスオブゼウス―――――

今は亡き八英雄の一人―――――ビビ・オルニティアが愛用していた武器だった。
そして、誰よりもビビの死を悲しんでいた人物が―――――エーコだった。


ビビを忘れないようにと想ったから、エーコはビビを忘れていた。
ビビを忘れないようにと想ったから、エーコはビビを無視していた。
ビビを忘れないようにと想ったから―――――
エーコはビビを恐れていた。


「ぁ・・・ぁ・・・」
「おい!エーコ!しっかりしろ!!」
ジタンがエーコの肩を揺さぶる。しかしエーコの目は焦点が合っておらず、宙を泳いでいる。
「エーコ!しっかりして!」
その呼びかけに答えることなく、エーコは静かに倒れた。
「エーコ!?」
「エーコ!!」


人は 時間の流れに逆らえない
それでも人は止まりたいと願う
時間は止まることなく 人を進めていく
その法則が無視された時、世界はどうなるだろうか
もし 止まったままの者が まだいる時間に戻ったら その人はどうなるだろうか
きっと―――――運命を変えようと足掻くだろう
それでも運命は―――――変えられないのだろうか